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二風谷ダム事件訴訟

アイヌ文化振興法が成立した1997年に、札幌地方裁判所は、アイヌ民族と土地との特別な関係について注目すべき判決を下しました。

1983年に、建設省(当時)が北海道日高地方を流れる沙流川流域の二風谷にダム建設を計画したところ、アイヌ民族の地権者は、北海道開発局に対して用地売渡を拒否しました。これに対して、1993年に、北海道収用委員会が土地の権利取得と明渡しの裁決をしたため、アイヌ民族の地権者が、裁決の取消を求めて札幌地方裁判所に提訴したのが本件訴訟です。

本判決は、国内の司法判断として初めて、アイヌ民族と土地との特別な関係と、その保護を怠った行政の責任及びアイヌ民族の先住性を認めています。すなわち、札幌地方裁判所は、土地収用によって失われるアイヌの民族的利益について、「本件収用対象地付近がアイヌ民族にとって、環境的・民族的・文化的・歴史的・宗教的に重要な諸価値を有していることは明らか」として、その民族的利益を認め、土地収用裁決を違法としました。

さらに、アイヌ民族の先住性について、「アイヌ人々は、我が国の統治が及ぶ前から主として北海道に居住し、独自の文化を形成し、またアイデンティティを有しており、これが我が国の統治に取り込まれた後もその多数構成員の採った政策等により、経済的、社会的に大きな打撃を受けつつも、なお独自の文化及びアイデンティティを喪失していない社会的な集団である」と判示し、アイヌ民族の先住性を認めています。

ただし、本判決は、北海道収用委員会の裁決を違法とする一方、ダム自体は完成していることから、いわゆる事情判決により原告の請求を棄却しました 。

本判決は、アイヌ民族が日本の先住民族であり人権条約の認める民族的権利の享有主体であることを明確に認めており、日本においてアイヌ民族の先住民族としての権利を進展させる契機になり得る内容といえます。